生産者紹介

風車の町佐多岬の会

肥料と農薬を全部抜いて土の力だけで育てた柑橘は、おなかにすっと入ってくるような食べやすさが人気です。

豊かな土壌が作り上げる自然栽培の甘夏

愛媛県の柑橘全体の生産量は年間約20万トンを超え、40年以上も日本一の座をキープしている。約40品種が栽培され、その数は日本一だ。収穫時期がそれぞれ異なるため、一年を通じてさまざな品種を味わえることが魅力である。
愛媛県は年間平均気温が15度以上で、最低気温が氷点下5度以下にならず、日照時間が多いため、気象条件が柑橘類の成長に適しているといわれる。太陽の光と瀬戸内海の潮風をいっぱいに浴び、ミネラルを豊富に含んた土壤で、甘さと酸味のバランスが絶妙な栄養価の高い柑橘が育つ。
四国最西端に位置し、瀬戸内海と宇和海を隔てる日本一細長い佐田岬半島で、日野文彦さんは甘夏・いよかん・みかん・デコボン・清見・せとか・レモンと、多種多様な柑橘の完全な自然栽培に取り組んでいる。自然農法の農地を受け継いで半世紀、いまでは有機の農薬や肥料さえ一切使わずに期待を裏切らない柑橘を栽培し、肥沃な農地や磨き上げた技術、切り開いた販路を次世代へと確実に繋げてゆく。

無肥料無農薬への挑戦

僕の甘夏は皮が薄くて中の果肉が硬いぐらい、しっかりと誌まっています。肥料と農薬を全部抜いて土の力だけで育てているので、「おなかの中にすっと入ってくるような、すっきりとした食べやすい甘夏だ」と、お客さんからよく言われます。
おじいちゃんが農業をしていて、親父が自然農法を始め、もう50年ぐらいになります。僕が異業種から農業を継いだこの10年は、どうせやるなら徹底して本物を作ろうと、肥料も農薬も全く使わない自然栽培です。僕自身が一番気をつけていることが正直な生産と正直な販売。どれだけひどい状態になったときでも、とにかくぐっと我慢します。
無肥料無農薬にしだして3、4年ぐらいは、収量や実の太る大きさなどに、ちょっとずつ苦労しました。一番悩ましかったのは、柑橘全般の皮に黒いすすのような汚れがつくことです。周りに自然栽培をしている人がいないので、自分一人で研究しながら、「なぜこんなに真っ黒に、すすだらけになってしまったんだろう」と模索しました。
すす病菌はカイガラムシなどの排泄物や分泌物を養分に増殖します。害虫駆除の農薬を使えれば被害は出ませんが、それでは意味がありません。甘夏は皮が強いので、タワシで汚れを洗って出荷していました。汚い部分は摘み落とせばいいので、園地をきれいに維持していくよう努力しました。

どんな状態のものでも完売を目指す

甘夏は大体4分の1ぐらいに収量を落として作っています。昔だったら木1本でコンテナ5杯、100キロぐらい収穫していましたが、今は20~25キロです。園地が広い分、僕にはちょうどいいし、毎年きっちりなってくれるようになりました。
流通の厳しさには当初、四苦八苦しました。ほんの一握りの自然食を扱うようなターゲットに向けて3年間ぐらい、年間70万円ほど電話代を使いました。2年目は断られた先に手紙、はがき、電話を繰り返して流通を開拓しました。時間とともに取引先が増えてきて、個人のお客さんも掴めるよう、行けるところには行って商品を販売しました。全部が稼働しているわけではありませんが、個人のお客さんは1000件を超えています。
甘夏が甘くなるのは、だいたい4月中旬以降です。うちの園地は不思議なことに、5月になると糖度が13度を超えて甘いみかん並みになり、非常に珍しいといわれます。とにかく、目指すは50トン全量出荷です。見た目がボロボロだろうが、僕の仕事は世の中に出すこと。甘夏は当初、販売にかなり苦戦しましたが、今では残り少ないときなど、すす付きの状態で買ってくださる方もいます。

娘に残せる農業にするために

朝は8時半ぐらいに出荷を終わらせ、園地で9時から昼まで収穫などの作業をしたら、自由時間です。3ヘクタールある園地の雑草は年に2回、2、3時間くらいで刈ります。収穫も一人でやります。貯蔵しないものは、翌日には出荷します。
作業を手早くして、園地を美しく守ることを心がけています。先日、ホテルでソムリエをされている方が訪ねてこられて、「園地がきれいで木の状態がいい」と驚いていました。その方が柑橘の味を「酸がきれい」と表現してくださったんです。
僕の子どもは柑橘がすごく好きで、僕が作ったものは見た目が汚かろうが、何でもよく食べます。いま10歳の子どもが将来、僕みたいに無理せず、考えることもなく、スムーズに農業を継げたらいいなと思っています。人を雇って園地を運営するための作業環境だけは早いうちに整えておきたい。
農薬も肥料も撒かなくていい、無理してきれいなものも作らなくていい、加工品からA・B・C品まで、作った物は全部世の中に出せるように出荷先さえ用意しておけば、子どもに技術がなくても困らす、幸せにできるかな、ポーナスになるかなと。そうすれば、残せる農業になると思うんです。

乗り越えた先にあるもの

自然の作物を求めて僕の商品を買ってくれる方のために、正直な生産と正直な販売を続けないと、期待を裏切ることになります。正直、今は木が落ち着いて暴れることがなくなってきているので、補助的に剪定するだけで作業量も少なく、自然栽培をやってよかったなと実感しています。こんなに手がかからないのは、土が出来上がっている状態だからだと思います。以前は土も硬かったのですが、いまは草の根がわっと張り巡らされているので、踏んでわかるくらい軟らかくなっています。
うちの園地は、すごくいいところばかりにあるんです。どこの園地を自然栽培しても安定してきていますので、土壤の条件のよさに感謝しています。我慢する期間が長いなあと思いましたが、農業自体が以前と比べて格段に楽になっています。
仲間を増やすという面では、来る者は拒みません。自分も販路開拓は大変だったので、「一緒に販売をやりたい」と言われれば労力は惜しみません。
今後は加工に力を入れたいと思っています。みかんはジュースの注文を取ったら生で出す分がなくなってしまいました。甘夏やいよかんなどの中晩柑の加工品を増やしていきたい。ジャムなどのありきたりなものではなく、ちょっと脳みそを柔らかくして、突拍子もないことを考えたいですね。

DATA
風車の町佐多岬の会(愛媛県西宇和郡伊方町)
主な生産物:柑橘類【無農薬・無肥料】
代表者:日野文彦
主な作物出荷カレンダー