生産者紹介

SKOS合同会社

「食べる立場」がすべての判断基準。自然栽培小麦とこだわりの材料で焼かれたパンも好評。

有機JAS認定を受けた自然栽培の希少な小麦

日本で年間に消費される小麦は650万トンほど。パン・麺・菓子などの食品の原料として、 食生活で重要な役割を果たす小麦粉は、大部分が米国・カナダ・豪州などの外国産で、国産小麦の生産量は、90.5万トンに過ぎない(平成29年度)。なかでもパン用小麦に利用される強力粉は、そのほとんどを輸入に頼るのが実情である。

輸入小麦の多くは、腐敗や虫の発生などを防ぐためのポストハーベスト農薬(収穫後の農産物に使用する殺菌・防かび剤など)が散布されている。栽培中に散布される農薬よりも残留率が高く、人体に及ぼす影響が懸念されるため、近年では国産小麦の自給力強化、製パン性の高い良質な硬質小麦の生産拡大が求められているのだ。

SKOS(エスコス)合同会社の土本仁(じん)さんは青森県三戸郡新郷村で、小麦や大豆をはじめとした農産物を農薬・肥料・除草剤・堆肥などを一切使わずに育て上げている。澄んだ空気と上質な水、理解あるパートナーや仲間を味方に、自然栽培の困難な道を穏やかに力強く切り開いていく。

農業は将来の目標と考えていたが、転機が

震災をきっかけに、青森に移住しました。2011年まで20年くらい栃木にいたんです。その頃は農家ではなくて、 SE(システムエンジニア)の仕事をしていました。当時仕事を受けていたクライアントが震災の被害を大きく受けてしまったため、私も仕事がなくなってしまいました。技術協力など復興支援的な仕事がないかコンサルタントの友人に相談したら、「八戸に行こう」と誘われ、何回か通いました。

そのうち、 「青森は過疎が激しく人が減って大変。新郷は特に空いた土地や畑がどんどん増えて高齢化が進み、農業の担い手を探している」と聞きました。農業に興味のある知人に伝えようと条件を聞いたら、土地も家も農機具もあり、好条件だったので、自分たちが移住することにしました。

元々土いじりが好きで、安心なものを食べたい気持ちが強く、自分で作るのが一番いいと思っていました。 「成功したら田舎に300坪くらい土地を買って自分で食べる分は自分で作りたいね」と妻と話していたので、「まだ成功してないけど、行っちゃえ」と決意したのです。実際は、聞いていた通りの受け入れ体制はできていませんでしたが。

パン好きが高じて小麦農家に

妻とは栃木の大学の探鳥会というバードウォッチングのサークルで出会いました。二人とも自然が好きで、一緒にパンを焼くのが共通の趣味でした。業務用の 25キロ袋の小麦粉を買ってパンを作っていたのですが、こだわりが強くなり、「有機の小麦粉を使いたい」「外国産はしゃくだな」と感じていました。移住してまず小麦を作っている人を探し、新郷村で最初に自然栽培を手がけた方を紹介していただき、小麦のやり方を教わりました。

9月に引っ越して、年明けから農作業を始めようというときに、「奇跡のりんご」で有名な木村秋則さんが塾をやると聞き、青森県南部町で開催された「自然栽培ふれあい塾」1期生になりました。
自然栽培を知らなかったので、有機栽培をするつもりでしたが、堆肥の抗生物質など安全性が気になっていたのです。「木村さんの自然栽培は肥料も使わない、じゃあ答えが出たね」と、躊躇なく入り込めました。

自然栽培以外を知らないから他の農法と比較できませんが、経験者がいないので何が正解かがわからないのが大変です。圃場の日当たりや土の状態によって対応を変えています。例えば、南斜面は作物の出来がいいように思えますが、戸来岳(へらいだけ)という山から吹いてくる冷たいおろし風が当たるので生育が悪く、北側斜面は育ちがよくなります。

生物多様性を確保した農法

5反でスタートした圃場は、いま37町歩です。7月に麦を刈ったら8月に次の麦を播種、 10月に大豆を収穫します。麦は「 30センチ間隔で4条植えるとよい」と木村さんに教えられましたが、何年か栽培するうちに、そのやり方では「アレロパシー(他の植物の生育を抑える力)」が働かないことがわかってきました。試行錯誤して条間 22センチがよさそうだと、7年目にして到達しました。近すぎると今度は蒸れて病気が出たりします。寝込んでいる日は別として、1年365日のうち1日も休みなく働いているのに、密度が不適切で雑草に負けるとめげます。

小麦の畝と畝の間に大豆を植え、収穫ごとに位置をずらすことで、少肥作物の豆と多肥作物の麦がバランスよく実ります。麦を植えていたところに翌年、大豆を植え、木村さんの春蒔きの指導を秋蒔きにアレンジして実践しています。小麦を全面栽培すると生物多様性が失われ、圃場の中央にいくに従って、背も穂も小さくなってしまいます。野菜は、麦と大豆で圃場を土壌改良してから植えたほうがいいというのが、ここ何年かの結論です。

ワイルドではなく、マイルドな味わい

自然栽培の小麦は、製粉して容器に入れると、開けたときに甘い匂いがします。麦本来の香りです。他の野菜も香りや味がやさしい。有機栽培のにんじんは主張の強い味や香りがしますが、自然栽培だと穏やかな癒されるような味で、自分でもびっくりしました。さつまいもも切ってしばらくおいてもあくが出ず、変色しません。食べてみたらすごくシルキーで、繊維がありませんでした。

自分が食べたいものを提供することがこだわりです。発想が消費者なので、食べる立場がすべての判断基準です。とことんこだわった作物や製品ですから、体に染み込むおいしさをまずは食べてみてほしいし、圃場を見に来てほしいと思います。

SEの知識を農業機械の分野に応用したいし、独立する気がある人を対象に農業研修もしたい。圃場の面積を広げて、収量500トン作れたら発言力が高まるかもしれません。ゆくゆくは、パンを選んで食事ができるレストランを東京に持つのが夢です。

自然栽培小麦と自家製酵母で 作られる味わい深いパン

やさしい香りとしっかりした旨みの自然栽培の小麦を、慣行栽培の小麦が混入しないよう自社で製粉することにこだわり、20種類ぐらいのパンを作っている。自ら自然栽培した米から麹を作り、自社の甘麹やモルトフラワーを糖分として酵母を丁寧に培養。油・塩・水などの材料も厳選し、自然栽培あるいはオーガニックの副材料を使用している。防腐剤や酸化防止剤などの添加物を入れずに、小麦の甘味を引き出し、やさしい味と香りに仕上げている。
当初は製粉した 後のエージング(熟成)に時間がかかることを知らず、生地が膨らまなかった失敗経験も。自然栽培の小麦は酵素が強く生命力が非常に高いため、ひと月くらい粉を寝かせた方がいいという。
仁さんはイングリッシュ・マッフィンやプチパン、励子さんはずっしりと食べ応えがあるドイツ風のシュヴァルツ・ベルクがお気に入り。自然栽培作物の品質を保つために、パンだけでなく、豆腐や味噌なども加工販売し、6次化に取り組んでいる。

DATA
SKOS合同会社(青森県新郷村)
主な生産物:小麦・パン 大豆 【自然栽培 有機JAS】
代表者:土本 仁
主な作物出荷カレンダー